アーツブレインズ

THOUGHT

開発者の想い

【第6回 開発は未来を創る】

開発というのは、商品の一生と向き合う仕事です。では、開発者は商品とどう向き合うのでしょうか。

  • 商品の歴史を前へ進める

    「商品のライフサイクル」といういい方をよく耳にすると思います。マーケティングでは商品の誕生から終わりまでを、 導入期、成長期、成熟期、衰退期と分けて分析し、如何に上手に儲けるかを考えるようです。しかし、こうしたマーケティング主義は利益効率を求めるばかりに、 誰の・何のために・何を生産し提供すべきなのかという企業の哲学や目的を見失わせ社会性を曖昧にしてしまう場合があります。少なくても企業家や開発者は、 事業の目的や社会性をはっきりと示したうえで、開発の課題に取り組むべきだと私は思います。 商品の開発とは、見方を変えると「誕生させ、発展させ、 終わらせ、そして次の商品を誕生をさせる」という繰り返しです。どんな商品にも寿命があり、やがて消えていきます。開発は、死滅する古い価値を 新しい価値に生まれ変わらせる行為だとも言えます。この繰り返しは、商品の歴史を前へ前へと進め、文化を発展させ、未来を創っていきます。 だから、誰の・何のために・どんな未来が創りたいのかを考え実現させるのが、商品を開発する私たちの仕事なのです。

  • 疑問だらけの開発術

     マーケティング的には、商品の改良は自分の商品の価値を競合品より優位に保とうとおこなわれます。 優位に立つには自分のマーケットの支配者にならなければなりません。顧客を研究し、性格や嗜好、消費行動のパターンまで分析します。 それはあたかも養魚場で「最も食いつきの早い餌の配合を研究する」行程の様です。そして、この餌に魚が飽きないように改良の研究が常に続けられます。 その為に、ニーズの調査や研究が開発にとって最も重要な位置に置かれ、開発の司令塔になります。現在的利害だけを視て、顧客満足主義に陥ってしまう危険性が、 そこには潜んでいると私は思います。多くの企業の開発者はこうした手法に従って商品探しをしているのではないでしょうか。
    これは、企業競争の原理が商品を自動研磨し技術や生産力を向上させ富を増産するという理屈なのでしょうが、あまりにも無計画で無責任です。 未来が見えてきません。私はこうした企業の開発に予てより疑問をいだいていました。

  • 「思い」が創る商品

    全ての物事が、誕生、発展、消滅という法則に従うように商品も必ずこの道を辿ります。こうした法則を観察し、 分析して未来(目的)を計画することが必要だと考えます。
    ではこの章の最後に、少し私たちの商品開発の工程を紹介いたしましょう。
    私たちには、最初に「思い」があります。思いとは、商品化の目的(実現したい未来の姿や夢)のことで、 これこそが開発のエネルギーだと私は信じています。だから「思いは強ければ強いほどいい」というのが私の口癖の1つです。 次に、既存(または過去)の商品が誕生した要因(主な原因要素・歴史の必然性)を研究し、 目的を実現させるためのテーマ(商品の必要性や価値感・実現したい技術や機能)を導き出します。 このテーマを実現する為の課題(解決したい障害・壁) を明らかにしアイディア(解決策・方法論)を見つけます。これを検証(実験・理論化)し特許を出したり、デザインしたりします。最後に、製造ラインや 原材料費を検討しコストを出し商品化を実行します。
    次に、アイメイク化粧品のテーマの変化と商品の多様化を見てみます。例えば、60年代の日本。テレビ、冷蔵庫、洗濯機が急激に家庭に普及していく 戦後高度経済成長期。女性の社会進出が一挙に進みます。欧米からはファッション商品や情報がどんどん入ってきて、欧米人に憧れるように「目を大きく見せる」 というアイメイク化粧品の大テーマが生まれます。すると「欧米人のような」をテーマにしたアイシャドウや「ふたえのような目」のアイライナー、 「パッチリした目」のマスカラetcの60年代アイメイクが登場します。さらに60年代後半に入ると「もっと目をパッチリさせる」という課題をうけて 「つけまつげ」が登場し、ツィギーの来日を機に爆発的なヒットになりました。戦前は赤い口紅とファンテーション、頬紅ぐらいだった一般日本人女性の お化粧が変わりはじめたのでした。こんな風に、テーマが多様化し、数々のメイクアップ化粧品を育てたのが60年代メイクでした。
    気づかれたかと思いますが、ここには「シーズ」「ニーズ」「マーケティング」 等々の思考方法が登場しません。ただ開発の弁証法的方法論と目的意識、 発展の歴史だけを書かせていただきました。
    自分の発明品が戦争の道具になってしまう未来を予測できなかったノーベルは一生後悔しました。何度失敗してもあきらめず飛行機を発明したライト 兄弟はマーケティングを知っていたのでしょうか。開発者が開発者たる為には、市場のニーズや人の行動を分析する能力があればいいという訳ではありません。 未来描くことや、情熱と行動力、他人を理解し思いやる愛情や感性が大切なのだと私は思っています。そんな人間力こそが高めなければならない力だと思います。
    私たちには「思い」が沸いてきます。その思いが、未来を描き、前に進む勇気とエネルギーをくれます。

  1. 01.流行をつくった少女のこと。
  2. 02.2つのふたえメイクと第3の道。
  3. 03.売れない企画。
  4. 04.「ライフスタイルを変える力」。
  5. 05.「開発は自己否定」。
  6. 06.開発は未来を創る