THOUGHT
開発者の想い
【美への探求 vol.02】
鏡の発見から、アイデンティティーとしての化粧へ。
最近では、ツイッターなどの文字数制限や、言葉を縮めて話すことが流行っているせいか、子どもたちの言葉から「私が」とか「あなたは」という主語が、 省略されなくなったといわれています。これはとても危うい状況で、言葉とともに自分という意識が希薄になり、自分と他者の行動や感情の区別ができなくなる可能性も考えうるからです。
自分と他者とが違う存在であるという意識は、人間が持つ社会性の原点ともいえます。それは、『自己』にとって『他者』との関係を構築しているのが、社会だからです。
実は、主語である「自分が」という意識は、絶えず「あなたは」という他者を無意識に存在させ、自分と他者は個別に存在し、違う存在であるという意識を、潜在的に抱かせているからです。
では、『自己』や『他者』という意識はどこから生まれたのでしょう。
自分の姿を鏡で見せるという、動物実験があります。多くの動物は鏡に映った自分の姿を突然現れた他者だと思い、逃げたり攻撃をしかけたりします。チンパンジーぐらいになると、
初めは敵だと思い攻撃を仕掛けますが、やがて「自分が映っている」ことに気がつき大人しくなります。しかし、人間は鏡の中の自分を見つけたとき、それと同時に「自分を見ている自分」
と「見られている自分(鏡の中の他者)」を発見します。
これが「自我」の発見です。
感動や経験によるイメージを絞り出しシンボリック化する能力を得た脳が、自我の意識(鏡)を発見したとき、「自己の感動の表現」が「他者への感動の伝達」に統合されました。
そのとき人は、喜びや哀しみ、驚きや怒り、強さや優しさといった自身の経験や感動を伝えるために、まるで他者に話しかける言葉を探すように自身の顔や体に化粧を施し、自分の全てが表現体であることに目覚めたのです。
私たちアーツブレインズは「自己肯定の化粧」という考えを選択しました。これをよりご理解いただくために、まずは鏡をのぞいて、そこに存在する「自己」を発見するところから考えを進めていきたいと思います。
text:野尻英行