THOUGHT
開発者の想い
【美への探求 vol.04】
サルは子供から抱きつき、人は母親が抱きかかえる。
実は赤ちゃんや小さい子どもは、ウィンクができないことをご存知ですか?
目を閉じるための大人の神経は、右目は左脳、左目は右脳によって指示されますが、赤ちゃんの場合はこの神経器官が未発達で一つしか存在していため、
片目だけを閉じることができずに両目を閉じてしまいます。大人になるに連れてこの脳神経器官が発達し、やがて魅惑のウィンクができるようになるのです。
生まれて直ぐに自立して群れに参加する他の哺乳類は、生まれたときには脳が完成されています。しかし、人の脳は未完成な状態で生まれ、 生まれてからも発達を続けることができるようになりました。この発達する脳神経器官こそが人間に高い知能を与え、人間性というものをもたらしたのでした。
猿はおよそ5年で脳も体も大人になりますが、人はおよそ20年かけて体が成長します。しかし、最も素晴らしいのは人の脳が一生涯成長し続けることができるようになったことです。 人の脳細胞の数はチンパンジーの半分ほどしかありません。その代わりに、脳は生後成長を続け、神経器官を発達させて複雑な脳原野を作り、相互関係を結ぶようになりました。これにより、 人は多機能で多元化された脳を手に入れたのです。
猿は生まれてすぐ母親の胸にしがみつきます。でも人の赤ちゃんは超未熟児であるため首も据わらず母親にしがみつく力などありません。 「猿は子どもが母親を抱き」、「人は母親が子どもを抱く」のです。人の子どもは母親の両腕に抱かれ、強い愛情に自分の命をゆだねて育ちます。母と向かい合い、目を合わせて疎通し、 見て学び、左脳と脳神経器官を成長させていきます。人は「抱き合う」という他の動物には見られない習性を持っています。それは、命を育み、ゆだねるという大切な愛情行為だったのです。
猿の子どもの育て方との違いは、皮下脂肪の違いにも現れます。
猿の子どもは皮下脂肪が少ないため、体温が下がらないように母親の体温に依存して(抱きついて)成長します。一方、人の子どもは皮下脂肪が多く体温が下がりにくいため、
人の体から離して寝かすことができます。子どもをいつも抱きかかえていたのでは、母親は両腕が奪われ何もできなくなるため、子どもから抱いた手を放すときは、
他のオスやメスが子どもの面倒を見ます。そんな、他人の子どもを可愛がる「人の集団的母性」や「集団的父性」は、子供の命を守り成長させるために生まれたのかも知れません。
また、こんな話もあります。猿は他の猿がバナナを欲しがっていても、自分から進んで分け与えることはしません。しかし、人間は相手の心や情況を推測する「思いやりの脳原野」
を持っているので、ねだられなくても隣人に食べ物を与えます。この思いやり脳も、子どもから大人になるに連れて発達する左脳によるものだそうです。
人が猿たちよりも繁殖していく力が大きかった最大の理由は、貧しさや苦しみからお互いを支え合う心(思いやりの脳)が生まれ、集団社会を作り繁栄してきたからではないでしょうか。
折しも、世界の各地で戦争の火柱が上がっています。
「平和のために武器を取る」のではなく、思いやりと支え合いこそが人類の繁栄を支えてきたのだと改めて考えさせられました。
text:野尻英行