THOUGHT
開発者の想い
【美への探求 vol.06】
ネアンデルタール人からもらった姿と心
およそ30万年前にアフリカ大陸で誕生し、やがてユーラシア大陸で私たちの祖先ホモサピエンスと交配したとみられるネアンデルタール人は、
それより先にアフリカを出て、西ユーラシアから中央アジアにまで広がっていきました。
寒冷で湿地帯が多く、豊かな動植物に恵まれていたユーラシア大陸に拡散した彼らの暮らし方について、近年新たな発見が相次いでいます。
遺跡調査で見つかった40歳を超えるとみられる老人の遺骨は、幾つもの古い損傷を負ったもので、障がいを持った子供の遺骨も多数発見されました。
これは、彼らは働けなくなった老人にも手厚く、障がいを持って生まれた子どもたちを大切にしていたことを伺わせます。さらには、死者を埋葬し花を手向けていたとされる遺跡が発掘されたことは驚きでした。
また、貝殻で作った装飾品を身にまとっていたことも判り、美意識や固有な自己表現能力を持っていたと考えられます。もしかしたら、化粧をし、衣服も纏っていたのかも知れません。
これらの遺跡はとても古く、ホモ・サピエンスが出アフリカを果たす前の時代のものであることもわかりました。彼らは、ホモ・サピエンスと比べて非常に小規模の家族生活を送っていて、 障がい児や働けない老人にも食べ物を平等に分け与え、彼らを大切に守って暮らしていたのでしょう。老人は知惠と経験を伝え、親たちの留守を守り子供を育てます。また、障がい児や奇形児(突然変異) は生物の進化や環境適応への奇跡を生むことを彼らは知っていたのでしょうか(例えば、アメリカインディオは障がいのある子供を神の子として尊んでいました)。
私たちの暮らす経済社会では「働かざる者、食うべからず」という考え方が優先されます。しかし、彼らネアンデルタール人の暮らしは「働けない者も(平等に)食わす」という、 命の尊厳を最優位にした弱者への思いやりの心が伺われるものでした。
text:野尻英行